教材と勉強する順番(5) 可及的教材

◆可及的教材

できればやった方が良い教材です。といっても、やらなくていいわけではありません。特に過去問は必須です。

なぜ「可及的」と名付けたかというと、
1.これらの教材をやらないとダメだと設定すると、実践演習が疎かになってしまう可能性があること
2.実際、これらの教材は、その一部をやってなくても受かる人がいること
の2点が理由です。

やった方が良い理由は、それぞれの教材で異なります。事案処理方法理解、論証理解、論点潰し、などなど。

実践演習と教材がかぶっている部分があります。これは本来、全部実践演習で取り組めれば良いのですが、解いて書くというのは結構時間が掛かるので、効率化の観点から読むだけでよいとしたものです。実践演習と可及的教材の通読を同時並行でやるということです。読むだけでも意義があります。

なお、このあたりから教材の内容の難易度が上がってきます。分からなくてもめげずに繰り返し読むという努力が必要になってきます。

◎予備試験過去問潰し(予備試験受験生向け)

∇過去問潰しの進め方

後述の通り、過去問独特の傾向があること(本試験ほどではないですが)、過去に出た問題はまた出ることから、潰す必要はあります。

実践演習として解く・書くことに取り組むべきですが、この方法では全科目全年度潰すのに結構時間がかかります。

そこで、最低限目を通すだけというこなし方も考えられます。上記傾向の理解、過去に出た論点の網羅等は目を通すだけでも可能です。演習以外で、こうした目的で使うことについて可及的教材として位置づけています。

∇演習書との優先関係

可及的教材の優先順位についてですが、予備受験生は、演習書より過去問を優先させてください。予備試験過去問は予備校問題集を終わった段階でも全く解けないというレベルではありません。なら、やはり過去問を全年度潰すことが優先されます。

ただ、予備試験過去問を潰していても、あまり解き方がピンとこないなら演習書を読むのを先行させるのも良いと思います。ピンとこないのは大抵何かが欠けている場合です。解き方の理解、規範の理解、知らない論点、基礎的な概念の理解、等々。定評のある演習書は、一般的な受験生が見落としている思考の隙間部分を埋めてくれるような記載がなされています。だからこそ人気なわけです。

∇過去問の癖をつかむ

以上の一般的な難易度の話とは別に、過去問を難しくしているのは、その独特の傾向、「クセ」にあります。予備試験過去問を潰す目的は、単純に設問に慣れる・よく出る論点を潰す等の一般的なことよりも、このクセを知ることにあります。たとえば、予備試験過去問でいうと、独特の問題、問題の分量、出題範囲の広さ等のクセがあります。

独特の問題としては、民事の難易度の高さが上げられます。この難易度の原因は、当てはめ勝負ではなく、法律論に係る現場思考型の問題を解かせることにあります。ただ、解き方のパターンとして整理できるので、過去問を潰しさえすればなんとか対応できます。

また、刑法に特に顕著ですが、4枚という紙幅の少なさに比較して、あまりにも答案に書かなければならない分量が多いということも独特の癖の一つでしょう。短く書く訓練を積んでいないととてもじゃないと書き切れません。これは実践演習しないとダメですね。

ほかには、出題範囲の広さがあります。憲法の統治や、会社法の比較的マイナーな論点が出題されるのが典型ですが、本試験よりやや出題範囲が広いです。ただ、カバーしきれないレベルではありません。

こういったクセを認識し、対応策を考えておく・知るということが重要になってきます。

∇過去問講座について

自習でこなしていくことが難しいと感じたり、上記の独特の傾向がいまいち掴みきれないと感じたなら、予備校の過去問講座を受けてみても良いと思います。

◎演習書(学者の問題集)

∇目的

演習書を解く目的は、いわゆる難問の類型を知って対応できるようにすることにあります。

難問には、論証の深い理解(どういう事実を当てはめれば良いかの明確化すること)が必要なもの、現場思考型問題で対応方法を理解しておく必要があるもの、比較的マイナーな論点であるもの等、単純に予備校問題集を解いているだけでは知らない・分からない問題があります。

要はこれらの難問の類型を網羅的に知っておくという意義があるわけです。この難問の類型がそのまま、ないしさらに難易度を高めて出てくるのが予備試験、これに加えて長大な事例がつけられるのが本試験です。難問の類型を知っておかないと対応が困難になります。

以下、過去の記事「論点知識へのスタンスと使用テキスト」ですでに言及しているところではありますが、おすすめの演習書を挙げていきます。

【憲 法】

『憲法ガール』
→題材は過去問ですが、上記演習書の目的にマッチするので挙げています。憲法に特殊な応用問題というのはありません。うまく解けない原因は、基礎知識の整理・理解が疎かなこと(たとえば制度準拠型権利の概念と答案の書き方は説明できますでしょうか)、それの使い方・適用方法を知らないことの2点です。それを理解できるのが本教材です。

※申し訳ないのですが、予備試験に合わせた演習書というのは特にこれという決定版は設定していません。ただ、比較的典型題が出る傾向にあるので、三段階審査等に沿って各知識を整理、他の枠組みも網羅的に整理しておけば基本的に対応できます。

【行政法】

『事例研究行政法』
→少々古いですが、処分性、原告適格、裁量等の問題を解くに当たっての考え方を整理してくれています。

【民 法】

※申し訳ないのですが、民法は本試験・予備試験ともに演習書の決定版は設定していません。というのも、重要問題集とアガルート論証集で事足りたからです。基本的に典型論点と条文の知識があれば解けます。もちろん、過去問特有の現場思考型の問題があるのですが、それは過去問で潰せば良いわけです。

【会社法】

『ロープラクティス会社法』
→予備試験の種本です。もちろん理解も進むのですが、この本に載っている現場思考型の問題や、マイナー論点・条文がそのまま出たりします。会社法の最近の難しさの一つとして、論証集掲載論点が少ないが故に論証集に載っていない論点が出るというものがあります。この論点が載っています。ぜひ潰してください。

→予備試験ほどではないですが、本試験もロープラに載っている知識・問題が出ます。同じく潰しておけば、知識面ではほぼ大丈夫なレベルに達します。なお、百選については後述します。

【民 訴】

1.『ロープラクティス民訴』
2.『読解 民事訴訟法』
→民訴は、論証はなぜこう考えるのか等の理解、行間理解とでも言うべきものが大事です。この行間を試験で聞いてくるからです。これに資するのが上記2教材です。『ロープラクティス民訴』は網羅的です。『読解 民事訴訟法』は範囲は狭いですが、より深く行間を埋めてくれます。予備試験では前者で足りますが、本試験では後者まで読めば万全です。
→ただ、予備試験・本試験ともに過去問独特の問題類型がある。判例の射程問題等です。したがって、過去問を題材として解き方の研究・分析は必要になってきます。

【刑 法】

1.『ロープラクティス刑法』
2.『刑法事例演習教材』
→刑法の最近の傾向として、学説の出題があります。また、最新のものも含めた論点網羅が求められます。1は網羅性は2に劣りますが学説を丁寧に解説してくれる点で、2と別のニーズに答えてくれます。2は言わずと知れた種本ですね。令和5年本試験もここから出ました。予備試験なら1まで、本試験なら2もこなせば万全になります。

【刑 訴】

『事例演習刑事訴訟法』
→言わずと知れた名著です。刑訴の論証の謎がすべて解けます。刑訴は論証が分かっても何を当てはめたら良いか分からない、論証間の違いが分からない、そもそもこの論証ちょっと何言っているか分かんないです、という困難があるのですが、すべて解けます。予備・本試験ともに役立ちます。

【実務基礎、国際私法】

※ともに演習書は不要です。過去問で事足ります。
※なぜ選択科目が国際私法指定なのかは前の記事を読んでください。

◎本試験過去問潰し(本試験受験生向け)

∇過去問潰しの位置づけ

上記の予備試験での説明と同じです。本試験は実践演習的に潰すのは予備より大変です。必然、とりあえず目を通すレベルで対応することも増えます。

∇演習書との優先関係

実践演習と可及的教材は同時並行でこなしていくことになります。それぞれにおいて演習書との優先順位はおまかせします。

本試験過去問が難しいなと感じたら(普通は感じます)、やはり演習書を先にこなした方が、過去問に取り組みやすくなります。

ただ、本番まで時間がないこともあります。そうすると難しくても本試験過去問で実践演習しないとダメなわけですが、そのときの演習方法については実践演習の記事を読んでください。

また、可及的教材として、問題形式を網羅する・出題論点を潰すという観点なら、過去問解説講座を受講すれば、難しくてもついていけます。実践演習の記事で難しいよと言う話をしましたが、それは演習として解くのがきついという話なので。読んで理解する、講座を聴いて理解すること自体はそこまで困難ではありません。

したがって、試験が近かったり、本試験を解くゼミを組むことになったりして取り組まざるを得なくなり、演習書に優先せざるを得ない状況になったときでも対応自体は可能です。

∇本試験過去問のクセ

なによりもまず長大な問題文を処理しなければならないという特殊性があります。これは各科目の「問題文の読み方」の記事を読んで参考にしてほしいのですが、実際に取り組んでトレーニングしないと身につきません。

そして、演習書のところで言及した難問の類型が出てくるわけですが、その上で、本試験過去問独特の問題形式が出ます。憲法の人権選択、民訴の現場思考問題、刑法の共犯処理(最近は過去問に独特な共犯問題は出なくなりましたが)、等々です。これは他の教材には載っていない、真に過去問独特の問題です。

これが本試験を潰さないで受かるのが困難な最大の原因です。なんとか潰してもらえればと思います。

◎補足:論証集通読2回目・条文通読2回目

百選網羅は司法試験に使う知識を網羅するに当たっての最終段階です。その前に論証と条文を復習して、知識をいったん固めておくことをオススメします。

論証は定期試験や答練の前に定期的に見返されていると思います。ここでは精読することになります。この段階でなら、論証を理解しきるくらいのレベルで読むことができると思います。

条文は変わらず見出し通読で良いです。ただ、この段階に来ると、赤丸付きの条文が増え、また、知っている条文も増え、単に流し読みでなくいろいろ思い出しながら読めるようになっていると思います。

◎百選

目的は基本的に論点潰しですので(刑訴除く)、優先順位は下がります。ただ、論証集に載っていないけど百銭には乗っている判例を試験委員が狙い撃ちしてくるので、合格率をあげるためには潰した方がいいという話になります。

読むのは基本的に判旨部分だけで良いです。そこだけでは理解できなければ、事実関係と解説部分も読むという流れで良いです。

読む順番は自由ですが、刑訴を最優先にしてください。刑訴は、論証集は論証しか載っていない、かつ、論証だけだと当てはめ方・結論がよく分からないので、百選の判旨をチェックしておく必要があります。

以下、各科目と簡単な目的の記載です。

【憲 法】

→保護範囲論証の網羅のために読むことになります。人権部分ですね。統治は不要です。

【行政法】

→処分性と論証集に載っている判例は網羅。それ以外は絞る(たとえば予備校テキストに載っている判例のみ等)。最近、判例知識を前提としているような問題が出てきますが、たとえば原則例外でオリジナル規範を立てて解くという方法で沈まない答案を書くことが可能です。

【民 法】

→不要です。アガルート論証集で網羅されています。

【会社法】

→論証集に載っていない判例が出ます。ただ、現場思考で処理できなくはないです。

【民訴法】

→論証集に載っていない判例が出ます。会社法ほど現場思考で対応できるものではないので読むメリットがある一方、読んでも答案に落とし込むのが難しいです。

【刑 法】

→論証集でほぼ網羅されていますが、最新判例や載っていない判例も出ます。

【刑訴法】

→上記のとおり、最優先です。

◆次の記事

実践演習をしながら、以上の教材を潰せば、ほぼ合格します(過去問の処理方法の理解と訓練には苦労すると思いますが)。一連の記事はここで終わっても良いのですが、最後により高度な教材についても整理しておきます。これは逆に言うと、別にやらなくていいですよって話です。「高みを目指す人の教材」と呼称もちょっと適当ですが、教材のラインを把握するために良かったら読んでください。

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