教材と勉強する順番(3) 実践演習

◆実践演習

この段階から、本格的な演習が始まります。要は問題を解いてみる、答案を書いてみるという段階です。演習は、解く練習・書く練習という技術を身につけるという要素が強いです。知識との関係で言えば、基礎知識の応用・適用=使い方の練習の段階です。

もちろん、演習の過程で新しい知識を知ることもありますが、それはこの段階では付随的要素です。(「可及的教材」とも関わりますが、これは後述します。)

◎論文

∇目的

上記のとおり、解く練習・書く練習が目的です。この問題は何の問題なのか(問題発見)、どう処理すれば良いのか(問題解決)、どう書けば良いのか(答案作成)を考える練習です。

このとき、当然知識との照らし合わせをするわけですが、前の投稿で説明したとおり、もう一つの重要な要素として、「解き方」(「事案処理方法」)について考えるという点があります。事案処理方法と知識の照らし合わせて正しい論点にたどり着くというのが問題文の解き方になります。

書き方は基本的に三段論法ですね。これも練習しないと上手く書けません。

要は、やみくもに解くのではなく、解き方・書き方の「型」を意識しながら解いてほしいという話です。この観点がないと、いつまでたっても悪い意味での「論点ぺたり答案」「金太郎あめ答案」から抜け出せません。

∇注意点:完璧主義は止める

演習するにあたって、「論証を覚えてから~」とか「本番と同じく時間を計らないと~」とかやたらと前提を付けてしまう人がいます。はっきりいって不要です。

論証集を見ながら解いても良いです。むしろ模範答案等を見た上で、改めて解く・書くとかでもいいです。時間を計っても良いですし、測らなくても良いです。初期の頃は時間測ってもどうぜ時間内に解けません。

演習の目的は何かを考えてください。解き方・書き方の練習です。論証集を見ようが見まいが、時間を計ろうが測るまいが、この練習は可能なのです。論証集は試験直前に見返せば良いですし、解き方・書き方を身につければ、自然と時間は短くなります。

自らハードルを設けて、演習を後回しにするというのは止めてください。

∇具体的やり方

自分の状況と演習教材のレベルに合せて、3つの方法があります。

1.
なにもみずに解けるなら、そのまま解いてください。

2.
なんの論点かぐらいは分かるが何も見ずに解くのはきついレベルなら、論証集をみながら、また時間も限定せずに、解いてください。

3.
見当もつかない場合は、問題を読む→参考答案(優秀再現答案・予備校模範答案等)を読む→解説を読む→答案を写経する(書き写す)→何も見ずに解く・書く、という順番でやってください。

∇第三者の視点・解説の活用

解き方・書き方というのは、まとまったテキストがなく、口伝みたいになっている場合が多いです。したがって、一人で勉強するよりは、第三者に教わる、ないし議論しながら練習するのが良いです。弁護士講師のゼミでも、自主ゼミでも、答練でも、何でも良いです。

また、やはり答案を第三者の観点から読んでもらうというのは大切です。読みにくい答案は点数獲得の観点から不利です。第三者に客観的に評価してもらうというのが大切になってきます。

もちろん、自習でもいいですが、その場合は問題・答案・解説をぼんやりと読むのではなく、どうやればこの論点に気付けるか、どう処理しているか、どう書いているかと、分析的・意識的に読むことがより一層大切になってきます。

∇教材

では、何を教材に演習に取り組むか。

≫まずは過去問1~3年分を解いてください。

これは司法試験に限らず、受験勉強の鉄則の一つですが、ゴールを見定めることが大事です。本試験受験生は本試験を、予備試験受験生は予備試験を解いてみてください(見るレベルでもOK)。

もったいないからと過去問を取っておく人がいます。気持ちは分かりますが、勉強の目的を考えてみてください。過去問は、本番の問題に必要な解き方・書き方を分析するためにあります。知識を得るためではありません。逆に言えば、この解き方・書き方の型の訓練のためなら、同じ過去問を何度解いても良いのです。初見だろうと一度見た問題だろうと解き方・書き方は変わりません。しかし、一回で型は身につけられませんから繰り返すわけです。

1~3年分と幅を持たせたのは、主にロー生で本試験を勉強する人向けです。本試験は予備校問題集とのギャップがすごいので、7科目×3年分=21問を解いていると力尽きる可能性の方が高いと思います。1年分だけでも感じをみたあと、後述する演習書や予備校答練に移る方が合理的な場合が多いでしょう。ゼミを組めるならやってみても良いと思いますが、にしても少々ハードルが高いので。ただ、やらないというのはあまり得策ではないと思います。やはりゴールは見ておいた方が良いです。

≫その後の教材は何でも良いです。

予備校問題集でも予備試験過去問でも構いません。問題・参考答案・解説があるなら、何でも良いです。解き方・書き方の練習はできます。

予備校問題集をやる際は、講座を聞き直すかは悩ましいですね。最初は解き方の「基礎の基礎」を学ぶという観点から聞いて下さいと言いました。そうすると、2周目でより詳細に解き方について聞くということも可能です。ただ、身につけようとすると結局自分で考えるしかないわけですから、ある程度覚えているようなら不要かも知れません。ご自身の感覚と相談してください。

演習書(=学者先生が執筆した問題集)を使っても構いません。ただ、基本的に参考答案がないので、ゼミ等で取り組むのが良いでしょう。

予備校答練は、演習がある程度進んでから取り組むと良いと思います。比較的本番に近いレベルで、かつ時間を決めて解くので、演習に取り組みはじめでチャレンジするのは若干ハードルが高いですから。(なお、答練でなくても良いのですが、本番前に一度も時間決めで解いたことはないという事態は避けるよう気をつけてください。)

実践演習において、予備校問題集、予備試験過去問、演習書、予備校答練のどれをどの順番でやるかはご自身の感覚やゼミを組める機会、講座の有無等、諸事情を総合考慮して決めてください。自分の頭を使って問題を解くということができるならなんだって良いです。

≫いきなり本試験過去問の演習はできるか(ロー生向け)


これは本試験受験生向けの話です。本試験過去問に取り組む人は、予備合格者かロー生しかいないわけです。ただ、予備合格者は、すでに演習を行なっているので、いきなり本試験過去問に取り組むという状況はないです。したがって、ロー生向けの解説になります。

たしかに、本試験受験生だと予備に手を出すのはだるいし、演習書は解答がない、重問は簡単すぎる、となるといきなり本試験過去問で演習をするという選択の余地があります。

しかし、予備校問題集しか回していない段階で、本試験過去問をいきなり解くのは難しいです。予備校問題集と本試験過去問の難易度のギャップはすさまじいので。後の記事「可及的教材」で述べますが、いわゆる難問に分類される問題の上に、さらに本試験以外にない本試験独特の問題形式が載っかっているのが本試験過去問です。

ただ、本試験過去問を実践演習せずに本番に臨むというのはあり得ません。悠長に演習書を解いている時間がない場合は、上記のとおり、写経→何も見ずに解く、という3つめの手法で解いたりしてみてください。その際は、過去問講座の受講は必須だと思います。解き方・書き方を実践してくれますから。

∇答案を書く頻度:他の勉強との関係

演習で身につけるべき技術は、一朝一夕で身につけられるものではありません。演習は基本的に継続する必要があるわけです。また、一定レベルで技術が身についたなとか見える訳でもありません。他方で、ある程度演習したとしても、サボっていると技術が衰えます。また、なんだかんだインプットの時間はかかります。

とすると、一定頻度で続けるという方法を採ることが合理的です。たとえば、週1~2でゼミを組んで答案を恒常的に書く等です。

もっとも、ゼミを組む機会がない方や、とにかく一通りやってみたいという方もいると思います。たしかに問題のタイプは無限にあるわけではないので「一通り解く」というのもできなくはありません(その習熟度はさておき)。

そういうタイプの方は、たとえば予備校問題集を一通り書いてみる、という勉強方法も採ってみても良いと思います。

以上が、論文の演習についての方法論になります。

◎短答

∇短答いつ始めるか問題

合格するには、論文以外にも、短答の演習が必要です。

「短答いつ始めるの問題」があるわけですが、私見では、論文演習開始と同時にというのをオススメしています。この点、インプットテキストが終わってからすぐ=予備校問題集に取り組むと同時にという人がいるのですが、あまりオススメしていません。

短答は枝葉の知識も含まれます。予備校問題集で幹となる知識の感覚をつかんでないと、知識にメリハリがつかず、短答の知識も覚えにくくなります。また、三段論法等の法学の基本思考は論文問題でないと身につけられません。予備校問題集にすら取り組んでない段階では、三段論法も身についておらず、短答の知識でも理解できず、本当に雑多な知識をさらっていくということになってしまいます。これではなかなか覚えることもできず、勉強効率が悪くなります。

∇短答を解くにあたって意識すべきこと

幹を踏まえた上で、短答演習をしていくわけですが、事前のインプットはいりません。解きながら覚えていってください。

当然、知らない問題を解くわけですが、そのときは利益衡量的観点をもってください。「Aのこういう利益とBのこういう利益が対立しているけど、この肢の結論だとAがかわいそうだから×だな」という感じです。で、解説を読んで、間違えていたら、その理由の部分をチェックしてください。判例通説はこういう感じで利益衡量しているのだなと、自分の感覚を判例通説の感覚に合わせていくということを一つ意識してみてください。

短答は知識の部分が当然大きいのですが、すべての知識を知っていないとダメなわけではありません。断片知識で肢を絞った後、絞りきれないものは現場思考で解くという感じです。まぁ、公法は知識要素が強いのですが、この要素がなくなるわけではありません。この結論だとなんかおかしいよな?で切ることはよくあります。

で、問題を繰り返しているうちに、重要問題=頻出問題は繰り返し出てくるので、自然と覚えていきます。インプットテキストを読んでから解くとかもやらなくて良いです。唯一インプットテキストを読むとしたら、知識が複雑だったり(たとえば、賄賂罪や放火罪の類型はパズル的になっているので、一度整理した方が早い)、全然知らない制度の知識だったり(根保証とか。ただ、この場合も趣旨や基本条文の要件とかの中核知識を意識してください)する場合です。

∇教材

教材は、短答パーフェクトでも、肢別でも、他のでも何でも構いません。強いて言えば初学者は問題形式に慣れるために短答パーフェクトを解いた方が良いかもしれません。まぁ、どっちでも良いです。

ちなみに、辰巳から肢別アプリがでていますが、結構便利なのでオススメです。

∇記事書いてたの忘れてました笑

とつらつらとここまで書いてきましたが、一度記事にまとめたのを忘れていました(こちら)。良かったらこの記事も読んでみてください。より詳細に書いています。

∇短答と論文の勉強の優先順位(2024年7月加筆)

最近、個別指導で、相対的に勉強期間が短い方を受け持つことが増えてきましたが、そういった方は短答と論文のどっちを優先するかが問題になると思います。端的に言えば、短答が合格水準に達するまでは、短答を優先した方が良いでしょう。具体的な調整方法は、以下の記事に記載していますので、ご参考にしていただければと思います。記事タイトルは「予備」となっていますが、ロースクール生で現役生の方とかにも使っていただける内容だと思います。

◆次の記事

以上が実践演習教材についてです。次は本来は「可及的教材」(=できればやった方が良い教材)なのですが、それはいったん置いといて、要件事実の勉強、その他実務科目(手続と事実認定)の勉強、選択科目の勉強について書こうと思います。

この3つはどのタイミングで始めるかが悩んでしまうのですが、個人的には演習開始と同時、またはある程度演習をこなした後ならすぐにでも開始して良いと思っています。

というのも、要件事実・手続・事実認定の3要素は、いずれも前提となる実体法・手続法的知識は割と基本的です。演習書や百選に載っているような高度な知識を知らなくても普通に取り組めるのですよね。だったら、後回しにして、習熟度が低いまま本番に突入するより、早めにやった方がいいとうスタンスです。

特に要件事実の知識は、民法の問題でも書く機会があります。これは本試験でも予備試験でも変わりません。民法と民訴の基礎も勉強せずに、請求と主張と証拠の区別もつかないうちから読むと混乱するのでこの段階で読めばよいですが、後回しにしていいものでもありません。

この3つは、「続・必須教材」として整理しています。勉強の順序として実践演習を早めに開始すべきである一方、合格のためには必須なので、この呼称にしています。

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