予備校論証集の使い方

◎予備校論証集とはなにか

∇よく出る論点リスト

まず予備校論証集とはなにかなんですが、一言でいうと、「よく出る論点リスト」です。司法試験というのは基本的に論点を聞いてくるわけですが、その中でもよく出るものがまとめられたのが予備校論証集です。

予備校論証集を使わなかったり、内容をガシガシ修正したりしてもいいですが、よく出る論点リストなわけですから、載っている論点は知っておいた方が良いです。

間違えているから使わない方が良いという話をよく聞くのですが、間違えている論証の方が少ないですし、修正すればいい話です。ちょっと間違えているところがあるからと言って、「よく出る論点リスト」を使わないのは潔癖・完璧主義すぎるかなと。

∇法学知識を答案化したもの

予備校論証集は、よく出る論点リストであると同時に、判例等の法学知識を答案の形にまで落としたものでもあります。

学説勉強していると「これどう答案にするの?」ってのがありますが、判例も含めて法学知識は答案の形で準備していないと現場でいきなり答案にするのは凡人には難しいんですよね。

自分でオリジナルに答案化するのは結構大変です。基本的には間違えますし、あまり良いことはありません。できれば素直に予備校論証集を使ってください。

◎予備校論証集への批判

∇金太郎あめ答案

予備校論証集についての良くある批判は「金太郎あめ」答案になるというものですが、それは使いどころを間違えてしまうからかなと。あと、ごつい論証の割にはあてはめが弱いとか。

ただ、どちらも論証を知らなくて良いということではないことは分かるでしょうか。正しいポイントでバランスの取れた論証を出すことを求められているわけです。

∇現場思考型の問題への対応

もう一つの批判は、論証とは関係ない現場思考型の問題が出るというものです。

確かに新司法試験はそういう傾向がありますが、といっても論証を知っていることが前提となっている問題は多いです。

また、現場思考が求められている問題は、それに対する対処法を決めておけばよいのですが(伊藤塾のなにかの教材に載っていますが、問題には知っている問題と知らない問題の2種類しかないというやつですね)、そもそも解いている問題では現場思考が求められているのか、知識を求められている問題なのかは、みんなが知っている論点を網羅的に知っていないと判断がつきにくいです。

なんで「みんなが知っている」って話が出てくるのっていうと、相対評価なので、みんなが知らない問題は知らなくていい問題になるからですね。他方で、みんなが知っている問題は知っておくべき問題になります。

そして、みんなが知っている論点はだいたい予備校論証集と合致するわけですね。

したがって、現場思考型の問題を解くにしても予備校論証集の知識はあった方が良いです。

◎暗記について

∇暗記しないでください

予備校論証集を使っていて一番大変なのは、それを暗記することですね。はっきり言います。暗記しないでください。端的に言うと、論証は、キーワードを軸にして、40%~60%の精度で答案に再現すればよいのです。

確かに、完璧に暗記・暗唱できないとダメな論証ってあります。たとえば、処分性・原告適格、強制捜査・任意捜査の論証等です。ただ、そのレベルのものは各科目で2~3個です。

そうすると、暗唱できるレベルでガチガチに覚えるのは無駄で、繰り返し読んで脳に染み込ませる方が効率的です。ちなみに、この繰り返し読んで脳に染み込ませるというのは、アガルート論証集の前書きあたりに似た内容の話が書いてあります。

書いたり、論証を見ずにそらで思い出したりする方法は取らなくてよいです。これらは丸暗記するための方法ですが、丸暗記はどうせできないですし、ガチガチに覚えて吐き出すとかやっているとそれに脳のメモリを割かれてまともに問題を解いて書くことができません。

そんなんで覚えられるわけないじゃんという方もいると思うのですが、騙されたと思って繰り返してみてください、山口真由先生の『7回読み勉強法』っていうのがあるのですが、何回も繰り返すと徐々に頭に残るんですよね。ぼんやりとでも残っていれば、上記程度の精度なら、答案に再構成することができます(山口先生は全部覚えてしまうそうですが)。

∇繰り返す方法

ただ、単に繰り返しているだけでは頭に残りづらいですし、繰り返すスピードも遅くなってよりいっそう頭に残りづらくなります(1週間かけて回すと1週間前のは忘れていますが、1日で回せるなら次の日に結構頭に残っていますよね?)。

対策方法としては、(1)キーワードを意識する、(2)高速で繰り返せるようにするです。

まず、(2)の方ですが、以下の色分けで論証に下線を引くと高速で読みやすくなります。

・問題提起(緑)
・解釈理由(青)
・規範定立(赤)
・事実(緑)
・事実の評価(青)
・結論(赤)

論証はすべて問題となる事項結論に至る理由結論という論理の流れになっているのでこういう三色の色分けができるわけです(端的な論理になっているわけです。「結論から考える」とかいう話もあったりしますね)。このように色分けをしていると、自分がいま何を読んでいるのか、次に何を読むのかの予測がついて、読むのが早くなるわけですね。

次に(1)ですが、アガルート論証集と伊藤塾論証集はキーワードが太字になっているので、それを意識すればよいです。たまにポイントが外れたところがキーワードになっていたりするのですが、稀ですし、自分で選定し直せばよいことです。

ちなみに、キーワードは下線と同じ色でマーカーを引くと読みやすいです。3色マーカーを使うことになりますね。

◎勉強のステップ

∇論証を回せる状態にするに至るまで

前提として、初学者の方は、ひと通り授業聴講等のインプットをしてからの方が良いと思います。いきなり読み込まない方が良いかなと。試験の関係で時間が迫っているなら同時並行でもいいですが。

次に、予備校問題集(解答付き)を使いながら、基本的な論証(いわゆるAランク論証)の使い方を学んでください。予備校問題集は論証ドリルの側面がありますので。解答をみながら、こういう風に使う・書くんだなと学んでください。書写とかするとよいですよ。

この次に、論証集を網羅的に見ることになりますが、まず、上記の「使い方」講座等の論証集の授業を受けるとよいと思います。そして、その後、独自に論証自体を読み込んでいくとよいです。上記のとおりの下線色分け、マーキング等はこのときにやるのがオススメです。いきなりやると、適切な色分けができないんですよね。間違えて引き直しとかよくやることになります。

∇さらに読み込んでいくときのコツ

以上で一応予備校論証集を回せるようになるわけですが、試験に合わせてよりアップデートすることもできます。

まず、自分の頭の中の体系等(私の場合は事案処理方法等)に沿って、論証の順番を入れ替えて整理するのがありえます。そうすると、どこでどの論点を使うのかというのが整理できるので、記載事実から「あの論点だ」と自動的に思い浮かぶようになります。

私はPDF化していたので入替えが簡単でした。紙だと入れ替えるのが難しいので順番を書き込むとかですね。

次に、勉強する過程で論証となっている規範のあてはめの考慮要素のリスト化までいけるとより一層答案が書きやすくなります。論証規範だけだとあてはめ方が分からないので、これは問題を解いていく過程で書き込んでいくしかないです。

たとえば、任意処分だと必要性・緊急性・相当性としか論証には書いていないのですが、必要性なら犯罪の重大性・嫌疑の程度・手段の非代替性の3つを書き込むわけです。

∇ランク、メリハリ

予備校論証にはランクが振られているものがあります。しかし、論証を回すときには基本的には全論証を網羅的に見てください。Cランク論点が出た時にCランクだからと言って採点官は甘く見てくれますか? そんなん知らんわです。

ただ、メリハリは付けてください。Cはさらりと読むだけでいいですが、Aは「これはAだな、よく出るな」と思って意識しながら読んでください。これでだいぶ違います。

◎どれを使えばいいか

論証集は、どれを使うかは自由です。アガルート論証集、伊藤塾論証パターン、加藤喬の総まくり、趣旨規範ハンドブック(あいうえお順)。いろいろあります。合うものを選んでください。

私はアガルート論証集(以下、アガ論)を使っていたので少し補足すると、「論証集の使い方」講座は受けた方が良いですね。以下の3つの理由からです。

・アガ論は「論証集の使い方」講座で一通り解説をしてもらえます(ちなみに、伊藤塾も辰巳もこの類の講座がある)。
・また、同講座テキストとして送られてくる論証集には、市販にはない知識整理ページがありまして(いまどうなっているかは知りません)、これが便利です。
・また、公法系はそもそも市販されていないので同講座でしか手に入りません(理由は間違った使い方をされるからとおっしゃっていました。受けない場合、公法系は趣旨規範ハンドブックとかになりますね)。

◎予備校論証集以外の知識について

∇百選判例

重要なのは百選判例です。論証集に載っているものは良いのですが、やっかいなのは載っていないものです。予備校論証集には載っていないけど百選には載っている判例というのが試験では割と出ます。一番ひどいのは会社法です。必ず1問は出ます。明確に狙っていると思います。

刑訴法→会社法→民訴法→刑法→憲法人権の順で、網羅するための勉強計画を立てるとよいかなと。予備校論証集に載っていないものに限定すると割と早く済みます。

刑訴について少し注意喚起があります。刑訴は、規範部分は予備校論証集に載っていても、事案部分が載っていません。判例の事案に極めて近しい問題とか出たりするので、予備校論証集に載っていても事案をチェックするというのはした方が良いでしょう。「当てはめだし、なんとなるっしょ」と思うじゃないですか。でも、刑訴って判例の事案知って争点のポイントをつかんでいないと明後日の方向の答案を書いてしまうんですよね(特に捜査と訴因)。他の科目は現場思考で多少粘れたりするのですが。こういうこともあって、1番目にしています。

民法はアガ論だと尽くされています(他の論証集もそうじゃないかなと)。昔、1個だけ載っていない百選判例があったんですが(土地上の車に譲渡担保がついている場合に土地返還請求は担保権者と所有者のどっちにすればいいかってやつです)、それが本試験に出ました笑(狙い撃ちかもなと思っています)。その後、アガ論に追加されたので尽くされた状態になっています。ただ、もしかしたら百選の版が変わって新たに未掲載の重要判例出てるかもしれないので、チェックはしてください。

なお、家族法は論文に出うるものだけ載っています。それ以外(要は短答)では、百選を潰すよりも短答過去問を回した方がいいでしょう。

行政法の百選についてはこちらを参照。やるにしても一番最後でいいです。

憲法統治は大胆に切ってください。短答は過去問を解けばいいです。もちろん勉強してもいいですが。

∇有名問題集

以上の百選判例以外には、有名問題集に載っている論点等で抑えておくべきものがありますが、それは問題集を解く過程でピックアップしていくことになります。

一番そういうのが多いのは『刑法事例演習教材』です。種本と言われていますね。まぁ別にローの授業とかでも触れるんですが、クレジットカード貸与の場合の濫用が横領なの背任なのって司法試験で聞かれた内容がそのまんま載っていたりします。この問題集の問題に惑わせる共犯要素とか入れると本試験の内容になります。また、最近出てくる学説問題の対応を考えると『ロープラクティス刑法』も良いかなと。

アガ論との関係では『ロープラクティス民事訴訟法』が食い合わせが良いです。理解に役立つのもそうなんですが、アガ論ってなぜか管轄と当事者の確定の記載が皆無ないし薄いんですが、それを補ってくれます。また、問題集ではないですが、勅使河原先生の『読解 民事訴訟法』も食い合わせ良いです。論パでは補いきれない民訴理論の重要部分を学べます(自白の根拠ってなにか?とか)。

あと、『ロープラクティス会社法』も良いです。論証集では補いきれない細かい条文の問題(会社分割等一般承継と譲渡制限株式譲渡の関係、事後設立)とかが載っています。また、論証とは少しずれる事例の処理方法とかも載っています(信義則での調整等)。

∇まとめ方

これらの予備校論証集以外の重要知識は、コピーして、挟み込む等して一冊にまとめてもいいし、各教材の読むところに付箋を貼るとかでもいいです。なんでもいいので、見返しやすい・繰り返しやすい工夫をしてください。

◎補足:予備校論証集に載っている論証はどう選ばれているか。

上記や別ページで、基本的に知識は論証集に絞るのが良いという話をしました。そして、絞ったもの以外が出たらどうするのについては、その場合は、条文に書いているものは現場で条文をめくる、あと現場思考型の問題・未知の問題は対応方法を決めておくとよいという話もしました。

では、なぜこのような対処方法が可能なのか。それは、論証集に載っている論証は、それだけで多くの問題を処理できるように選ばれているからです。論証集の論証は、(1)にわかには思いつけない理屈で論じられているもので、(2)応用性の高いもの(いろんな事例で適用されるもの)が選ばれています。

百選掲載判例とかと比較してほしいんですが、百選に載っているけれども論証集に載っていない判例って、現場で処理の理屈を思いつけるものか、その事例でしか使えないようなものなんですよね。だいたいですが。

ここらへんの取捨選択が一番すごいのはアガルート論証集だと思っているのですが、まぁどこの予備校論証集も上記ロジックに沿って選ばれているなと。

なぜ予備校がこんなことできるのかというと、まず一つは膨大な問題研究をしているからですね。百選も含めて。

ただ、そもそも根本は、論証集というのは司法試験の過去問を基礎にしていますが、司法試験の考査委員が上記の基礎的な法論理を覚えているかを試す、それ以外は現場思考で解けばよいって思って作っているからですね。

このラインが上記でいう「知っておくべき問題」「みんなが知っている問題」の線引きと被っているのかなと。結果論的には論証集に書かれているからこういう線引きができるなんですけど、そもそもなぜ論証集に掲載されるかの線引きはどういう理屈なのを説明した感じですね。

といっても、上記のとおり、百選判例からも割と出ます。ただ、その頻度や出た時のどうしようもなさ(論証未掲載の百選判例はだいぶ現場思考で粘れます)には大きな差があるかなと。

縷々説明してきましたが、以上、全部私の推測(妄想)です。ただ、実際はともかく、そういうもんだと思って論証を使って、問題を解くと、イイ感じだったという経験則・結果からお話ししています。反論はありうるところでしょうが、気が向けばまぁ意識して読んでみてください。

◎補足:予備校論証とはなにか2

上記で予備校論証集は「よく出る論点リスト」と言いましたが、別の形で説明すると、「体系的知識の第一歩」となります。

某先生によると、法学には三つの能力が必要です。それは、問題発見能力、問題解決能力、体系的知識です。

たとえば、民法は(1)請求権の特定、(2)請求権の発生の検討、(3)対抗要件の検討、(4)抗弁の検討っていう4つに沿って事例を分析して問題(論点)を発見し、三段論法に沿って解決するという過程をたどります。

しかし、これだけだときちんとした法律論になりません。法学っていうのは先例、とくに判例を大切にする学問なわけですが(判例の拘束性に起因する)、その判例を踏まえていないからですね。判例を踏まえて、本件ではどうなるかを論じなければならないわけです。

もっと言うと、判例知識に照らし合わせながらじゃないと、普通の人は問題発見すらできません。学者が研究の過程で、ないしは立法者達が立法過程で議論する中で出てきたり、訴訟でプロの三者が主張立証を尽くしていく中で明らかになって出てくるのが論点で、それに対する判断が判例なわけですが、アマチュアが少し考えて適切な論点にたどり着けるわけないんですよね。

で、その判例および判例になっていなくても法学上論点とされている点の通説をまとめたのが予備校論証集で、それらを含めて法学知識を整理したものを体系的知識というわけです。

このように問題を解くにあたって必要な体系的知識の端緒として予備校論証集があるわけです。概説書・大系書や、大部の判例集を読み込むのもいいんですが、まずは基本的な論点を網羅しておく必要があります。他の知識っていうのは基本的な知識の派生ないし基本的な論点でできた土台に追加していくものですから。

なので、私は、普通の受験生の皆さんにはまずは論証集をきちんと使いこなせるようになることをオススメする次第です。なんか上手くいかないなーって人で、論証やってない人は取り組んでみてください。

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