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11月, 2024の投稿を表示しています

勉強の密度問題

◎知識を覚える必要 誤解を恐れずに言えば、司法試験は「知識を問う」試験です。論点「主義」などと言われて、あたかも論証を書くことが悪いことだと言われたりもしますが、それは全くの間違いです。司法試験で聞いているのは論点です。そして、90パーセント以上の論点は、事前に知っておくことが求められています。「論証を吐き出す」ことが求められているのです。 これは毫の疑いもなく法律論です。論証というのは、論点についての判例をコンパクトにまとめたものです。法律実務家は、判例を踏まえて書面を書くことが求められます。ならば、実務家登用試験で判例を知っているかを試すのは当然です。そのとき、長々と書くのではなく、判例の要点をまとめた形で書くことが求められます。これが論証です。 難点は、これが膨大なことです。論証は基本の7科目だとだいたい800~900個くらいあります。しかも、これらはそれなりの長さの文章です(実際に覚えるのはキーワードだけですが)。試験に通用する水準で覚えておくのは結構難しいでわけです。短答知識なんかも含めると、それはそれは膨大な量になります。 ◎勉強の密度 このために必要なのが、一定の教材を一定期間に一定回数繰り返し読むことです。「勉強の密度」とでもいいましょうか。 人間の脳というのは忘れるようにできています。で、この忘れる程度というのは、期間に比例します。受験論でよく用いられる「エピングハウスの忘却曲線」というものがあります。X日間経つとYパーセントしか覚えてないというものです。 これは、逆に言えば、たとえば、1か月前に読んだものより、1週間前に読んだものの方が良く覚えているということです。すなわち、選択科目も含めた8科目の論証集を1か月かけて通して読んだとき、最初の方で読んだものはほぼ忘れてしまっているわけですが、1週間に圧縮して読むとある程度は覚えており、試験に通用する水準で維持できるということです。 分からなかった問題なんだけど、実は論証集に載っていた、知っている問題だったけど、うろ覚え過ぎてまともに論述できなかった。そんな経験はありませんか。それはあなたの能力の問題ではなく、単に密度が足りなかっただけです。 以上のように、一定期間内に、一定範囲の教材を、一定回数回すという、勉強の密度が合格に関わってくるのです。 (なお、このとき、教材の決定と、繰返し回数は、人それ...

「悪しき方法での受験勉強」からの脱却

◎多浪の原因は何か 私は、勉強開始から11年、受験回数8回、失権を経て、ようやく合格しました。 これに関して、逆にどうして合格できたの?と聞かれることがあります。あまり上手く答えられなかったのですが、最近なんとなく分かった気がするので書いて残しておこうと思います。 前提ですが、私は大抵の失敗の原因は、能力でもやる気でもなく、「考え方」にあると思っています。たとえば勉強量が足りない人は、怠惰なのではなく、「合格までどれくらいの勉強が必要か、それを試験日までにこなすのに1日にどれくらい勉強しなければならないか」を認識しておくことが必要ということを考えていないのです。これなくして一生懸命勉強することは不可能です。ゴールまでの距離と時間制限を知らないのに、マラソンすることなんて不可能ですから。 これを踏まえて、私の多浪の原因は「悪しき方法での受験勉強」の考え方に嵌まっていたことにあると分析しています。これは大学受験までに遡ります。 ◎悪しき方法での受験勉強 私は大学受験時代、理系科目は「解法を覚える」という勉強方法を採っていました。問題集を何度も解いて解き方を覚えてしまうわけですね。 しかし、これは上手くやらないと学力は伸びません。要は「暗記」になっていまうわけです。解き方の表層は理解します。しかし、なぜその問題でその解き方をとるのかを理解していないと、少し違う問題が出てしまったときに、対応できなくなります。 また、基本知識の応用方法を知らないと応用問題は解けません。「応用」っていうと漠然とした感じになるのですが、明確に方法論があるのですよね。ただ、それは数値を入れれば答えが出る自動販売機的なものではなく、思考の補助線・導きの糸にすぎず、それを使って汗をかきながら考える必要があります。 (最近、『鉄緑会 基礎力完成 数学ⅠA+ⅡB』という本の前書き部分だけぱらっと見たのですが、「一般に数学の問題を解く際には、次のような2ステップをたどる。・問題の条件を読み替える(問題を数学的に書き換える)・書き替えた後で計算する」ということが書かれていました。これとか応用方法の話だなと思うんですよね。基礎知識を未知の問題に適用するときの考え方を抽象化・一般化しているので。そして、これだけでは解けないというのも同じです。) 要は、解法等のさらに奥にある論理を知るということを行なわず、表層的な...

与五沢悟講師の合格体験記の紹介

私も講師をしています個別指導塾リーガルゲートの同僚である、与五沢講師の合格体験記がアップされました。非常に良い内容でしたので、ご紹介したいと思います。 【与五沢悟講師 合格体験記 前編】ルーティン化の軌跡。予備試験・司法試験に合格するまでの道のり 【与五沢悟講師 合格体験記 後編】ルーティン化の軌跡。予備試験・司法試験に合格するまでの道のり 直接読んでいただければそれで足りると思いますが、私が素晴らしいなと思った部分について少しだけコメントします。 1.教材を絞っている まず、この点が良いと思いました。手を広げてしまうとその教材の習熟度が下がってしまいますから。また、絞った対象が予備校問題集というのも非常に合理的です。アウトプットを通じてインプットをする形で一石二鳥な訳です。 絞るとした決断力もすごいですね。いろいろな情報が入ってきてしまって混乱してしまった。そこで絞ったということなのですが、ここで混乱したままに散漫に手を付けてしまう方も珍しくはありません。 この決断時に、過去問は当然として、予備校問題集に絞ったのはどういう思考に基づいてなのか、一度伺ってみたいところです。 2.勉強の密度が高い 司法試験は範囲が膨大です。そのため、勉強したものはどんどん忘れていってしまいます。忘れるのは脳の構造上不可避なので、対策としては勉強密度を高めるしかありません。たとえば、普段1ヶ月かかる勉強をがんばって1週間でやったとしましょう。1ヶ月前のことより、1週間前のことは相対的によく覚えているわけです。 働きながら毎日4時間以上の勉強時間をとるというのは、結構大変です。これをやりきった意思力と体力はすごいです。 3.一度の不合格を通して勉強範囲を拡大している 最後に、一度の不合格の敗因分析を通して、足りないなと考えられて、論証集(と網羅性の高い問題集)を使っての勉強も追加されているのも良い点だなと思います。 実際、問題集1冊だけだと論点知識が足りません。なので論証集等は有益なのですが、これを本番試験(要は過去問)というゴールから考えて追加したことが重要です。巷に溢れる情報(あれやったほうがいいこれやらなくていい等)は根拠不明なわけです。一番客観的な情報源である本番試験・過去問に拠って修正するのが一番合理的です。 また、「問題集だけ」と固定化せず、柔軟に勉強範囲を広げたのも素晴らし...

学説等の勉強での位置付け

◆はじめに――学説を勉強する意味はあるのか 司法試験の勉強において、位置づけが難しいのが学説です。 たとえば、刑訴の差押えの範囲において、緊急説を勉強する意味はあるのか。もっというと、学者の書いた基本書を読む意味はあるのか。「だって答案に書けないじゃない」と。 私見を先に述べておきますと、「受験的な意味は限定的、が、勉強すると楽しいぞ」です。 どう楽しいかをうだうだ話してもつまらないので、そういう話は一番最後にします。まずは学説の勉強方法について解説します。 ◆学説の勉強方法 ◎学説を具体的要件に落とし込む 学説は、論点における一説です。で、論点はどこから出てくるのかというと、要件からです(効果についての争いもあったりしますが、要は同じことです)。換言すれば、学説は、「必ず」どこかの要件に落とし込めます。 たとえば、緊急説は無令状差押えの範囲の論点ですが、逮捕に伴う捜索・差押えの条文上の要件は、 (1)「逮捕する場合」、(2)「逮捕の現場」、(3)「差押え」です。じゃあ、(3)の範囲は?という論点が出てくる訳ですが、それを根拠論とともに議論しているのが相当説と緊急説です。 で、法学における論・説というのは、何らかの利益を代表しています。体系性や法理論から考える場合でも、それは公平性、すなわち、体系性や法理論が貫徹されないと公平性が害されてしまう人の利益を代表しています。 要は、反対当事者に有利な結論を導くために学説はあるのです。法学で実際に結論に影響を及ぼすのは要件と効果だけです。趣旨は、要件・効果を通して具体化されるので、直接的には結論に影響しません。学説は必ず要件・効果に落とし込めるのです。 したがって、 1.必要なのは、要件(・効果)の徹底的な整理 2.そこから、学問的議論を要件(・効果)に落とし込む というのが、学説の勉強における不可欠な基礎になります。これがないと抽象論としてしか捉えられません。それは学説を捉え損なっているということです。 ◎学説の背景にあるもの 上記のとおり、学説というのは、通説・判例に対して、対立利益を代表した論・説なわけですが、場当たり的に反対説をとっている訳ではありません。法学の体系的な解釈に基づき、当該学説が導き出されているのです。 法学には、なぜ体系的解釈が必要なのか、もしくは、なぜ体系的解釈が生まれてくるのか、という話は、あま...

日経特集「司法試験に落ちた君へ」リンク集

【2024年】 50歳で司法試験合格 受験資格喪失、働きながら再挑戦 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG06A1Z0W4A101C2000000/ 不合格で諦めた法曹の夢「必要とされる場は必ずある」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG227UY0S4A021C2000000/ 6度の司法試験失敗、メルカリで生きた「濃い経験」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG245N50U4A021C2000000/ 【2023年】 司法試験に落ちた君へ AI研究者「三振」バネに58歳の春 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2054Y0Q3A021C2000000/ 司法試験に落ちた君へ 弱き労働者守る遅咲きの闘士 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC258EX0V21C23A0000000/ 司法試験に落ちた君へ 18連敗から逆転、税務弁護士の雄 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC133FK0T11C23A0000000/