勉強の密度問題

◎知識を覚える必要

誤解を恐れずに言えば、司法試験は「知識を問う」試験です。論点「主義」などと言われて、あたかも論証を書くことが悪いことだと言われたりもしますが、それは全くの間違いです。司法試験で聞いているのは論点です。そして、90パーセント以上の論点は、事前に知っておくことが求められています。「論証を吐き出す」ことが求められているのです。

これは毫の疑いもなく法律論です。論証というのは、論点についての判例をコンパクトにまとめたものです。法律実務家は、判例を踏まえて書面を書くことが求められます。ならば、実務家登用試験で判例を知っているかを試すのは当然です。そのとき、長々と書くのではなく、判例の要点をまとめた形で書くことが求められます。これが論証です。

難点は、これが膨大なことです。論証は基本の7科目だとだいたい800~900個くらいあります。しかも、これらはそれなりの長さの文章です(実際に覚えるのはキーワードだけですが)。試験に通用する水準で覚えておくのは結構難しいでわけです。短答知識なんかも含めると、それはそれは膨大な量になります。

◎勉強の密度

このために必要なのが、一定の教材を一定期間に一定回数繰り返し読むことです。「勉強の密度」とでもいいましょうか。

人間の脳というのは忘れるようにできています。で、この忘れる程度というのは、期間に比例します。受験論でよく用いられる「エピングハウスの忘却曲線」というものがあります。X日間経つとYパーセントしか覚えてないというものです。

これは、逆に言えば、たとえば、1か月前に読んだものより、1週間前に読んだものの方が良く覚えているということです。すなわち、選択科目も含めた8科目の論証集を1か月かけて通して読んだとき、最初の方で読んだものはほぼ忘れてしまっているわけですが、1週間に圧縮して読むとある程度は覚えており、試験に通用する水準で維持できるということです。

分からなかった問題なんだけど、実は論証集に載っていた、知っている問題だったけど、うろ覚え過ぎてまともに論述できなかった。そんな経験はありませんか。それはあなたの能力の問題ではなく、単に密度が足りなかっただけです。

以上のように、一定期間内に、一定範囲の教材を、一定回数回すという、勉強の密度が合格に関わってくるのです。

(なお、このとき、教材の決定と、繰返し回数は、人それぞれです。百選を全部潰す人も居ればそうでもない人も居ます。それは過去問を解いてみて、自分で調整するしかありません。)

◎短答式について

この勉強の密度が最も強く影響するのは短答式です。1年間に2周するより3周した方が、3周するより4周した方が、知識の定着度が高まり、問題の正答率が上がります。

もちろん、ただ繰り返すのではなく、理解する過程は当然必要です。雑多な知識の羅列を覚えることは人間には不可能です。この点は強調しておきたいところです。

ただ、短答は、基本的に、繰返しの回数に比例して点数も上がります。

◎変えられるのは勉強「量」

良い解説を聞いて深く理解でき、忘れにくくなることがあります。これは忘れにくくすることで繰返し回数を少なくする効果があるでしょう。ただ、膨大な試験範囲での影響は微々たるものです。最も簡単に必要な勉強密度も達する方法は、1日の勉強量を増やすことです。

1日3時間しか勉強していない人と、1日4時間勉強している人では、365時間の差があります。短答は1肢を解いて解説も見るのに3分程度かかりますが、7300肢の差があります。肢別本上3法だと約1.5周分の差があります。圧倒的です。

◎量を確保してほしい

私は、司法試験というのは正しい勉強法さえ掴めば、長くかかってもやがて合格する試験だと思っています。これは当たり前だと思います。法律が突飛な発想が必要なものだとすると、世が乱れます。一般人にも十分に理解できるものでなければならないわけです。そういった考え方・知識の集積が法律論なわけです。ただ、量が多い。そのため、長く掛かるが、誰にでも合格するチャンスのある試験といえるわけです。

もっとも、どれだけ巧みな授業を受けて、どれだけ効率的な勉強をして、どれだけ正しい理解をしても、「知識を問う」試験なのです。そのため、勉強の密度がどうしても必要になります。

◎勉強の取捨選択

ただ、働いていたり、家庭の都合があったりで、本当にどうしても勉強時間を確保することが難しい人もいることは分かります。その人は、勉強の取捨選択を大胆に行なってください。教材を絞って、その範囲内の勉強の練度(定着率)を上げる、これしかありません。

◎自分の経験

私は、予備試験で復権した後、司法試験に1回落ちています。このとき、すでにフルタイムで働いていたので、勉強時間が少なくなってしまいました。

このため、知識は網羅していたのに、うろ覚えの部分が出てしまいました。結果、知っている論点なのに、書けないという事態が生じてしまいました。具体的には刑事系の学説を聞く論点で、うろ覚えであるが故に上手く書けず混乱し、大崩れしてしまいました。刑事系はEとFでした(たしか)。

短答も、合格点すれすれで、最終合格にとってビハインドになってしまっていました。

で、次の年、親がお金を出してくれたんですよね(恥ずかしい話ですが、感謝しきりで頭が上がりません)。といってもフルタイム勤務は続けたんですが、試験直前期に結構な時間を取ることができました。

その結果、論文はある程度余裕のある点数で、短答も140点台となりました。勉強量が如実に影響したわけです。

◎まとめ

言いたいのは、一生懸命時間をとって勉強しなければ受かるものも受からないという話です。「この程度で行ける」という見積りは、どの受験生も行ないますが、それは甘い見積りになっていないか、単に自分の環境から導き出された見積りに過ぎないのではないか、考えてみてください。試験に合格するというゴールからの見積りでないといけないのです。

世にはあたかも司法試験が簡単かのように勘違いしてしまう広告や、噂が流布しています。

もちろん、「正体不明の巨大な何か」と、どうやっても太刀打ちできない膨大・難解な試験と思い込むことも間違いです。

ただ、司法試験は、楽な試験ではありません。一生懸命勉強しなければなりません。このことを踏まえて、一定以上の勉強密度をこなす勉強計画を組んでいただきたいと思う次第です。

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