受験テクニックの話

0.司法試験に苦労した原因

ロースクール入学から11年(2010年入学)、1回留年、本試験5回不合格で失権、予備試験で復権したが、さらに本試験1回落ちて、今年2021年本試験を受験した。

司法試験界の不死鳥といっても過言ではないが、なぜここまで苦労しているのかを自分なりに分析してみた。

一言でいうなら、法学と受験テクニックを分けてなかったことにある。これにより、学習方法の混乱、時間の浪費、点数の低迷が生じた。

ロースクールでは弁護士による学習指導があったり、予備校でもテクニック的なことは聞いたりしていたのだが、うまく摂取することができず、早期にテクニックを身に付けることができなかった。法学と受験テクニックをはっきり切り分けられたのは予備試験合格時である。

まあ、せっかく考えたので、自分なりの受験テクニックを体系的に書いていこうと思う。私が考える受験テクニックは、(1)知識の整理、(2)問題の解き方の基礎、(3)過去問で試験のクセを知る、(4)事務処理能力、(5)文章力の5つである。

そして、その中核は(1)(2)で、相互に密接に関連している。長くなるけれども、以下で(1)(2)の中身や関係等について解説をしようと思う。

1.受験テクニックの始まり=論証パターンをおぼえる((1)の話)

法学と受験テクニックを分けるというのは、体系的または網羅的な勉強と、試験で点を取る勉強を分けるということである。

試験で点を取るにはどうすればいいか?というのは受験論の大テーマである。一つの答えとしては、「試験によく出る問題の答えを覚えればいい」という方法論が挙げられる。

司法試験受験界においては、その究極形態が論証パターンである。論証パターンを理解し、覚えることを受験テクニックの第一に挙げたい。

(なお、覚えるといっても暗記はやめてください。詳しくはこちら

ロースクールは、論証パターンという方法を滅ぼすことも目的としている。いわゆる「金太郎あめ」答案の元凶とされているからである。

しかし、司法試験の実態はどうだろうか。そもそも知識として論証パターンを覚えていないと解けない・書けない問題というのがあるのである。

もちろん、適切な箇所で、適切な論証パターンを書くことで初めて点数が来る。なので、事案分析・答案作成の方法を分かっている必要があるのだけど、それは、論証パターンが不要ということではない。むしろ、基礎となっているといえるだろう。

この塩梅が分からないために、論証パターンを覚えず、問題が解けなくなってしまっている受験生がいる。歪みである。

2.受験テクニックの神髄=問題の解き方の理解((2)の話)

で、もちろん、論証パターンを使いこなせないと点数はとれない。いわゆる金太郎あめ答案は、使いこなせていないことが原因だと思っている。

使いこなすにはどうすればよいか。「問題の解き方」を自分の中で整理しておくことが効果的であると考えている。私は、「事案処理方法」と呼んでいる。

たとえば、民法だと、請求権パターンというものがある。誰が誰に対して何をどのような根拠に基づいて求めているのかを分析することである。民法は請求が認められるかということを聞いてくるので、必然、請求権パターンによる事案分析を行うことが必要なのである。

もう少し詳しく言うと、民法は、①請求権パターンによる請求の提示、②請求権が実体法上発生しているか(要件を充たしているか)、③それを第三者に主張できるか(対抗要件の問題)、④(対抗要件の抗弁以外の)抗弁はあるか、という思考方法で、問題を分析するし、答案も書くのである。

で、論証パターンは、この4項目のどれかで使うことになる。逆に言うと、4項目以外で使うことはない。論証パターンを使いこなすには、この4項目に知識を整理する必要があるのである。

なにやら小難しい話を書いているように見えるかもしれないが、上記民法の話でいえば、単純に要件事実を意識しろというだけの話に帰着する。

たとえば、危険負担の論点をどのタイミングで論じるか、頭の中で整理できているだろうか(正確な位置づけは再抗弁である)。この整理が出来ていないと、危険負担の論点に気付けなくて落としてしまう。気付いたとしてもどう書けば良いのかわたわたしてしまうのである。

4項目の整理、すなわち要件事実の意識は、ほとんどの受験生は、問題を解くというアウトプットの勉強の中で自然に行っている。

司法試験の勉強で、よく「問題を解け」と言われるが、それは事案処理方法を身に付けるためでもあるが、意味のある形で知識を理解するためでもあるだろう。

3.法学の森に迷い込むな
以上2点が、私が受験テクニックと呼ぶものの内容である。事案処理方法と論証知識は車の両輪で、どちらかが欠けていても問題は解けないし、書けない。逆に言うと、両方を備えていればだいたいの問題は解けるのである。

いま受験生の人には、まず、この受験テクニックを意識してほしいと思う。でないと法学の森に迷い込んで死ぬ。

はっきり言って、法学をしっかりと(網羅的にまたは深く)理解しようとするのは無謀である。時間が足りなくなる。すなわち、落ちる可能性が飛躍的に高まる。そもそも、その法律だけを一生をかけて研究している人たちが何万人(しかもその何万人は天才または秀才の群れである)といて、日々研究を積み重ねて発展しているのが法学の世界である。しかも、司法試験受験生はそれを8科目そろえないとダメなのである。正々堂々とぶつかっていては死ぬ。

一部の受験生は、法学の巨大さに動揺する。また、アウトプットしないとダメな知識の量に動揺する。そして、法学を一生懸命やらないとダメだと勘違いする。そして、落ちる。(なお、大抵の受験生は賢いのでそんなことはしない)

しかし、必要な知識・技術は絞れる。市販の論証集に載っている論点を理解し、事案処理方法の理解・トレーニングすればよいのである。繰り返しになるが、法学の森に迷い込まないでほしい。生きろ。

4.分離のうえでの従属的結合

じゃあ、論証集と問題集をやればいいんですか?と当然なる。まぁ、はっきり言って正解だと思うのだけど、それだけではうまくいかないことももちろんある。

たとえば、受験テクニックだけではカバーしきれない問題がある。令和3年設問2は、請負と委任の区別という論証パターンには載っていないけど、民法の基礎知識であるものを問う問題が出た。また、設問3は、多くの条文を駆使する問題が出た。

また、論証パターンはしっかり理解しないと使いこなせない。そして、しっかり理解するには、周辺知識も含めて、論証パターンの元になっている法学の理解が必要である。

整理していえば、前者は、受験テクニックを基礎に積み上げていくもの、後者は、受験テクニックを深めていくものと言えるだろう。

こういう形で、法学と受験テクニックは分離するのだけど、分離したうえで、法学を受験テクニックに従属的に結合させることも、司法試験の問題を解くためには必要である。
また、そもそも、(入門レベルでよいのだが)ひと通り勉強しないと、問題集も論証集もよく分からんとなる。ちなみに、このひと通りの勉強を担っているのは予備校の総合講義とかだろう。

以上のように、受験テクニックを身に付けるというのが司法試験の核心なのだが、法学をまったく勉強しないというのもまた違う(というか無理である)。両者は、車の両輪だからである。ただ、繰り返しになるが、従属関係・優先順位は明確にある。

じゃあ、どう法学を勉強すればいいの?っていうのはまた回を改める。ここでは、とりあえずまず受験テクニックを身に付けてくれ、というのが言いたいので。

5.補足:法学と受験テクニックのズレはどこから来るのか

司法試験は、なぜ法学知識がそのまま聞かれる問題になってないの?と、ふと疑問に思ったので、メモ程度に書いておく。

法学というのは、法解釈のための大系的学問である。他方で、司法試験は、実学的能力、すなわち、問題となっている事案を法的に処理する技術を試すものである。

法学の勉強とは、「法学の体系性のための根本概念」から展開している議論を学ぶものである。なので、同概念の理解が重要である。

他方で、司法試験の勉強は、上記技術=「事案処理方法」=問題を解くための基礎を身に付けることが重要である。

この二つはズレるのではないかと思う。たとえば、

憲法は、「個人の尊厳」を根本概念として議論を展開させていくが、問題を解くためには「三段階審査」を知っていないと話にならない。

民法は、「自由・平等・所有権」が民法体系の根本概念である。他方で、問題を解くためには「請求権パターン」から始まる枠組みを知っておく必要がある。

刑法は、「行為無価値・結果無価値」という刑法上悪いことってなに?を考えるための基本概念がある。他方で、刑法に必要なのは、各犯罪の「構成要件の整理」である。

なお、このズレは、基本書と問題集のズレとしても現れているようにも思う。最近は、ケースを載せて解き方を意識した基本書も出てきているが、やはり限界はあるだろう。

と、このような感じで、法学と受験テクニックがズレるのではないかと思っている。このズレをうまく処理できない人が、受験勉強に失敗するのではないかな~と。というか過去の自分である。以上、補足終わり。

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