司法試験は機械的に解けるか?

最近、個別指導内でこのテーマに言及することが多かったので、説明事項をまとめてみました。

1.「金太郎あめ答案」「自動販売機型答案」批判の功罪

司法試験制度改革の起源の一つに予備校潰しがある。

曰く、明後日の方向の論点について論証パターンを貼り付ける、または事案の特殊性もなにも踏まえない答案が多い、それは予備校が原因である、と。

いわゆる「金太郎あめ答案」「自動販売機型答案」に対する批判である(なお、別に予備校は金太郎あめ答案を書けなんて教育していないと思う)。

これらに対する対策として、「答案の書き方を教えない」とか、「過去問を解説しない」という方向がロースクールで取られているように思う。「金太郎あめ答案」を発生させないために、方法論的な内容を一般的に教えることを避ける傾向にあるのではないかと。「マニュアル化」される危険性をできる限り避けているということである。

確かに演習書(学者作成の問題集)を利用した授業もあるし、準制度的に弁護士の講師が過去問ゼミを開いていたりもするので、解き方の類いを全く教えていないわけではないが、やはり断片的である。

この結果、そもそも書き方・解き方(特に解き方)が分からないというロースクール生が出てくる。

守破離ともいうし、とりあえずは書き方・解き方の「型」を教えないとどうしようもないと思うのだが、それが行なわれていないという状況がよく見受けられる。これは「金太郎あめ答案フォビア」が合理性を失わせているためではないかと推測している。旧試での出来事(「この先生の説を書けば良い」とか)をみるとそうなるのも無理はないとも思うが、にしてもちょっと極端だろう。

2.「司法試験はパズルである」

一度曲がった鉄の棒をまっすぐに戻そうとすると、曲がっている方向と反対方向に思いっきり力を込めて曲げようとすることが必要だと思う。そこで、「司法試験はパズルである」というテーゼを提唱したい。

司法試験の問題文は、要件に当てはめる事実のブロックパズルとなっている。要件ごとに整理できるのが論点であるが、その論点に関する事実もブロックとして載っている。そのブロックを要件・論点の各項目に放り込んでいくことが答案作成の方法である。そして、これは、問題文の読み方にも直結する。(なお、行政、民訴、刑訴はブロックにはなっているのだが、使わない事実も結構載っているので、使えるブロックを探していくということになる。ブロックになっているのは変わらない。)

むしろ、問題作成委員が聞きたい論点から逆算して問題文が作られていると言ってもいいだろうと思う(試験委員の主観は知らないが、そういう問題の造りになっている)。司法試験は論点クイズで、論点を中心に作られている。むしろ論点を聞いているのである。論証を貼り付けることは何ら問題ない。ダメな答案は貼り付け方が上手くないだけである。

3.「パズル」の枠――事案処理方法

「いやいや、たとえば憲法の人権選択とか迷うじゃん」みたいな反論はあるだろうが、あれも思考過程をマニュアル化できる(=解き方・書き方の「型」を作ることができる)。すなわち、

・問題となっている立法・処分が核心的に制約している行為を考える。
→それを人権カタログに照らし合わせて繋げる。
→繋げる際に論点・論証を経由させる。

というマニュアル化が可能である(防衛線を張っておくが、これが唯一の解き方ということではない。私はこれで解いてたよという話である)。人権選択は博打だとか、人権感覚がないとダメだとか、人権選択に苦手意識を持っている人がいるが、「核心的に」と「論点・論証の経由」を外してしまっているかなという印象である。

人権選択は、問題文の事実を放り込むためのパズルの枠を作る段階とでも言える。この枠を作る過程を「事案処理方法」と名付けている。他の科目でも同じく事案処理方法がある。

これは換言すれば、適切な論証を貼り付けるための思考法である。

重要なのは、この枠作りの思考過程もマニュアル化することができるという点である。

4.マニュアルの応用

といっても、じゃあそのマニュアル・型を知っているだけでいいかというと、そうはいかない。マニュアル・型を上手く適用・活用するトレーニングは必要である。

たとえば、令和3年憲法だと、政府がデモと対立している状況がある。隠れ蓑的にマスクをしてデモしたいわけだが、政府としてはマスクをしてデモをすることを規制しようとしている。要は、マスクをしてデモしていいかどうかが対立の核心であると理解できる。デモをすること一般が問題になっているのではない。「核心的に」制約されているのはマスクをしてデモをする自由で、「経由させるべき論点・論証」は匿名表現の自由である。

マニュアルに照らし合わせつつも、思考力が必要な部分があるのである。マニュアルの限界とでも言おうか。

ほかには、たとえば、当てはめの時に、事実関係のポイントのみを摘示することが必要な場合がある。もちろんその要約は要件事実的思考(ピックアップすべき事実の最小単位はなにか)が必要で、それは応用と言うより規範の深い理解が寄与する部分が大きいのだが、「要はこういう話だよな」というある種の国語的能力も必要になる。

また、パズルの枠を検討するときにも、この枠だと書きやすい、別の枠だと書きにくい等々の思考が必要になる。

すなわち、マニュアルを使いこなす思考力は必要なのであって、完全に機械的に解けるわけではないのである。

ただ、強調したいのは、マニュアルをつくるというのは相当程度のレベルでできるという点である。「思考力」や「リーガルマインド」などとぼんやり言われる部分も実は結構整理できるのである。上手く解けない人は、「なぜ解けないのか」「うまく解くにはどうしたら良いのか」を考えてみると突破口が見つかるかもしれない。

5.まとめ

司法試験はだいぶ機械的に解けるが、思考力が必要な部分がゼロになるわけではない。機械的に解くためのマニュアル=型を理解した上で、それを使いこなせるようにする必要がある、というのが結論である。

ポイントは、まずはマニュアル=型からだよという点である。なにも手がかりがなければ法学に沿って論理的に考えることはできない。基礎と応用である。

この記事が、論点を軽視させられているが故に上手く解けないでいる受験生や、論点を勉強してもその先に進めないでいる受験生のデトックスにでもなれば良いなと思う。

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